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うたかたの仮の住処のこの世かな
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何ひとつ みのることなく 秋に入り


何ひとつ前に進まぬもどかしさ
もがいてももがいてもからみつきたる海草が
希望の光を遮りて、海深くへと引き込まん
この海草を切りほどき、浮かび上がろうと苦悶する
底知れぬ不安の海に漂いて
 
 
 
 
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雨はずっと降り続き、草や木をうちひびかせる
川は水かさを増し、魔物のようにうごめいて流れ行く
物憂げな一羽のカラスがとまっている
雨宿りをするでもなくうたれるままに
呆然と見つめているようなその顔は、わずかに動いて悲しげに
天災に、幼子を亡くした悲しみか、かけがえのない伴侶を亡くした苦しみか
ふっと飛び立ちてみえなくなるも、しばしののちにまたまいもどる
嵐が記憶を呼び覚ますのか、封印していた悲しみを



花冷えや亡き人恋うる涙かな

初雪が空から落ちてくる
じ~っと見つめる
冷たい静寂の夢の世界にしだいに引き込まれて、純真な魂に出会うつかの間
音もなく降り注ぐのに、雪は騒々しく、けたたましく、渦を巻き踊りめぐる
はっと我に返る
嗚呼、一瞬にして引き戻されてしまうのか、現実の世界に

このごろ朝によく見かける。

母親と手をつなぎ、楽しそうに歩いてくる。
黄色いバッグを肩に掛け黄色い帽子の女の子。
バッグには保育園の名前がみえる。
駅前の保育園にあなたを預けて母は仕事にゆくのだろう。
 
つないでいた手を離して、信号待ちでもないのにしばし立ち止まり、あなたは元気に飛び跳ねる。
母は包み込むようなやさしいまなざしでただじっと見つめている、あなたがまた母の手を取り歩き出すまで。

低い目線からは何が見えるの。
真新しいアスファルトの歩道、道端の草や花、仰ぎみる青空に母の優しい微笑みか。

何気ないひとときが、あなたの心に刻み込まれてずっと記憶の中に留まっていく。
 
これは心の原風景。かけがえのない宝物。
 
あなたはいつか思い出すだろう。
さびしいときかなしいとき、うれしいときにも。
そっと引き出しを開け思いがけなく見つけたようにこの何気ない風景を。
愛情いっぱいに包まれていたあの頃を。

あなたの心を慰めてほっと気持ちを満たしてくれる、あなただけの原風景。


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